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司法書士の委任契約書上の条項に対する申し入れ及びその結果
消費者支援ネットくまもと(以下「当法人」)は,宮﨑政雄司法書士(熊本市東区。以下「同司法書士」)に対し,同司法書士が個人再生ないし自己破産において依頼者との間で締結する委任契約書の条項について消費者契約法に沿って改善するよう申入れをしました。しかし,同司法書士からは何らの回答もありませんでしたので,当法人の申し入れの内容を公表します。
第1 同司法書士への申入れ
1 契約条項
同司法書士が個人再生ないし自己破産の場合において依頼者との間で締結する委任契約書には以下の条項がありました(以下、それぞれ「条項(1)」「条項(2)」とします。なお「乙」は同司法書士、「甲」は依頼者に該当します)。
(1)「甲または乙が本契約に違反した場合,もしくは甲が下記事項に該当した場合,一方の申し出により本契約を解除することができる。
①費用の支払いをしないとき
②乙からの連絡に応答しない状態が続くとき
③甲の非協力により手続が停滞する状態が続くとき
(2) 「甲の契約違反により本契約が解除された場合,乙が受領済みの着手金は返却しない。」
2 当法人の申入れ
(1) 条項(1)を消費者契約法第10条に照らして疑義のない内容に変更してください。仮に条項(1)が解除事由を限定しない趣旨の規定であれば,その旨を明記してください。
(2) 条項(2)を消費者契約法第10条に照らして疑義のない内容に変更してください。
3 当法人が問題と考えた点
(1) (1)について
本件契約書は、委任契約(民法第643条)ないし準委任契約(同656条)を内容とするところ,民法第651条第1項は「委任は,各当事者がいつでもその解除をすることができる。」と規定しています。
ところが,条項(1)は、委任契約を解除できる場合を限定していると読み取れます。すると,条項(1)は,消費者契約法第10条に言う「法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」に該当し、無効となると考えます。
仮に、条項(1)が解除事由を限定しない趣旨であるとしても,そのように読み取ることは難しいと思われます。
(2) (2)について
民法上,受任者(本件では司法書士)は,原則として委任事務の履行をしなければ,報酬の全額を請求することはできず,受任者の報酬請求権は既履行の割合部分に限られると解されます。
しかし,条項(2)は,委任者(依頼者)の契約違反により委任契約が解除された場合には,受領済みの着手金は返却しないと定めています。このことは,委任者の契約違反の内容・程度及び履行の割合にかかわらず,委任報酬全額の支払義務を負わせると規定しているに他ならないものです。
以上から,当法人としては,条項(2)は,消費者契約法第10条に該当し,無効となると考えます。
4 同司法書士の対応
当法人から同司法書士に対しては,前項の問題点の改善を求める申入れを行いましたが,同司法書士からの回答はありませんでした。
5 コメント
当法人としては,同司法書士に何ら対応いただけないことから,差止請求訴訟の提起も検討しましたが,同司法書士が現在も上記の条項を使用しているかについて確証が持てないこと等から,一旦同司法書士に対する申入れは終了します。
消費者のみなさまにおかれましては,弁護士・司法書士と委任契約を締結される際には,契約条項をご確認の上、分からない部分がある場合は積極的に弁護士・司法書士に説明を求め、契約内容を十分理解した上で契約されることをお勧めいたします。
第2 経緯
・令和3年10月4日付 申入書を同司法書士に送付
・同司法書士からは全く回答なし
・令和4年1月14日付 申入れ終了通知を同司法書士に送付